英単語の覚え方 — 覚えられる人は記憶力ではなく日程が違う

「覚えられない」の原因として最初に疑われるのは、たいてい記憶力だ。暗記が苦手なのだ、年だから、土台がないのだ。ところが、覚えられる人を横から観察すると、違っているのは脳ではなく日程のほうに見えてくる。何をどの向きで保存し、どの方向で取り出し、いつ、もう一度会うか。この三つの設計が違っているだけで、脳の優劣の話ではない。

「英単語 覚え方」で検索する瞬間は、目の前に覚えきれていないリストがあるときだ。大学受験の単語集、TOEICの頻出語、英検の級の一覧。対象は違うのに検索語は一つに集まり、並ぶ記事の内容も似た場所に集まる。語源、連想、書いて覚える、音読。どれも最初の一回を速くする技術の話で、その先を書く記事は少ない。

この記事はその先のほうを書く。忘れるのは仕様で、読み返すことと思い出すことは別の作業で、間隔は伸ばすほうが残る。そして破綻するのは覚え方ではなく、復習の日程のほうだ。試験の種類は問わない。大学受験でもTOEICでも英検でも、壊れる場所は共通している。

ひと目で。 忘れるのは覚え方の失敗ではなく脳の仕様で(忘却)、身につくのは読み返すより自分で取り出す練習のほうで(想起)、会う間隔は詰めるより伸ばすほうが残る(間隔)。覚えられる人は、この三つの日程が違っているだけだ。この記事は、単語帳の周回がどこで崩れるかを整理して、復習の日程をFSRS-6が代わりに計算するかを確かめる。

忘れるのは不具合ではなく、脳の仕様のほうだ

覚えた語が消えていく速さは、直線ではない。覚えた直後に急激に落ちて、そのあと緩やかになっていく。忘却曲線と呼ばれる形で、百年以上前から観測されている。昨日覚えた語が今日は半分になっているとして、それは覚え方が雑だった証拠ではない。記憶のほうが、忘れるようにできているだけだ。

この曲線から出てくる戦略は一つだ。全部消える前に、しかし何も残っていない後にではなく、もう一度会うこと。ぎりぎり思い出せるところで会った記憶が、いちばん長く残る。

問題は、このタイミングを感覚が掴めないことだ。「そろそろ忘れている頃」は当てにならない。単語帳のマークは「もう一度見るもの」の印であって、「もう一度見る頃合い」の知らせではない。紙には日程表がない。

読み返すことと思い出すことは、別の作業だ

単語帳を読み返すとき、頁を開いた瞬間に意味が目に入っている。これは取り出しているのではなく、判別しているだけだ。答えが目の前にある状態で「知っている」と感じて、読み返したぶんが身についたと勘定する。試験の長文で必要な動作は逆方向で、文を読んでいて語に会ったとき、記憶の側から意味を取り出す。そのとき本は閉じている。

同じ時間をかけるなら、自分で取り出す練習のほうが記憶を長く残す。この差はテスティング効果の研究で繰り返し報告されてきた。

間隔は、詰めるより伸ばすほうが残る

復習の間隔は、忘れないうちに詰め続けることも、思い出せたぶんだけ伸ばしていくこともできる。後者を間隔反復と呼ぶ。前日に覚えた語を同じ日のうちに三回確認しても、間隔は開いていない。その週の中では固いが、試験は数週間後に来る。会う回数を同じにしても、間隔が開いているほうが長く残る。

数で言えば、一枚のカードに、1日後、3日後、7日後、14日後、30日後と会っていくと、一年の間に戻ってくるのは十回に満たない。

破綻するのは覚え方ではなく、日程のほうだ

覚え方の情報はすでに溢れていて、語源も連想も書くことも、初回の定着ならどれも機能する。それでも英単語の学習が途切れる場所は、ここではない。

単語帳を一周する計画には構造的な無理がある。進んだ分だけ、忘れた分が後ろに積もる。マークした語を読み返して二周目に入る頃には、一周目の前半が薄くなっている。そこで「覚え方が合わなかった」と別の単語帳、別の覚え方に替わる。選び直しがもう一周する。実際に壊れていたのは選び方ではなく、忘れた語を拾って戻す日程のほうだ。

数は例として置く。一日に20語ずつ新しく覚えて、毎日それまでの分を全部読み返すなら、30日目の一日分は20×30で600語になる。この算数は止まらない。600語を読み返す日が来ると、全体を手放す。意志の問題ではなく、積算の問題だ。

もう一つ。単語集のDayやUnitは、本の側が作った進度表であって、読む人の速度も試験日も知らない。Dayは本の時間割だ。自分の時間割とはずれる。

一覧を、復習が回るデッキに替える

私たちはこの流れを作っている側(Piccard)にいるので、その道具で書く。この記事は総論なので、道具は簡潔に留める。カードの作り方そのものと、紙とエクセルとアプリの比較はカードの作り方の話に譲って、入口だけを並べる。

資料を上げて、候補から濾す。 手持ちの単語集や配布資料、長いテキストは、打ち込み直さずにそのままアップロードする。PDFのほかに写真・動画・音声も上げられる。単語・意味・例文の入った候補が、0から100の優先度付きで並ぶので、知らないものだけを選んで一度に確定する。一度に確定できるのは20枚まで。この20枚という数を正直に書くと、学習理論から導いた数ではない。カード一枚がおよそ300から350の出力トークンで、20枚が出力の上限に収まるように決めた、道具側の設計定数だ。制約から来た数だ。ただ、一日の最初の分量を道具が代わりに決めてくれるので、濾す作業とは噛み合って働く。

画面上の語を選ぶ。 ウェブで読んでいる英文の中の語を、ダブルクリックで選ぶとカードの候補として届く。読んでいて引っかかった語が、その日の一枚になれる。

字幕のある動画で、その行だけ。 Piccardの拡張を付けた字幕のある動画では、クリックしたその行だけがカードの候補として届く。動画全体をまとめてカードにする機能ではない。字幕のない動画は対象にならない。保存したカードは保存元のYouTubeの瞬間をそのまま再生するので、復習のたびに、その語に最初に出会った場面に戻る。

試験別の実戦は別に置いてある。この流れのTOEIC版がTOEIC 単語の覚え方で、英検版が英検 単語の覚え方で、大学受験の単語集版がシス単 アプリだ。骨格は同じで、材料が変わるだけだ。

復習の日程はFSRS-6が計算する

保存が終わると、残るのは管理の問題だ。何を、いつ、戻すか。Piccardではこの日付をFSRS-6が計算する。目標の定着率は0.9がデフォルトで、これを言い換えると、次に会うときに9割の確率で思い出せる時点にカードを置く、という設定になる。今日の復習が100枚なら、90枚は分かった上で会って、10枚ほどは「もう一度」になる。それが設計された正常のほうで、いまのところ設定のページはない。

評価は四段階(もう一度/難しい/普通/簡単)。難しいと答えたカードは次の間隔が縮み、簡単と答えたカードは開く。「もう一度」は失敗の記録ではなく、間隔を詰めてすぐにもう一度会うための入力として扱われる。何をいつ戻すかの見当は、忘れる速さを測った忘却曲線の観測に、間隔の伸ばし方を調べた間隔反復の研究が、それぞれ下支えしている。

試験日が決まっている勉強では、もう一つだけ設計が要る。新しいカードは、試験の二、三週間前で止めること。私たちがこの停止線を勧めるのは、復習の山が伸びている最中に新しい語が流れ込み続けると、直前期に両方が重なるからだ。止めたあとは戻ってきた分だけを処理して、直前の一週間はよく間違えるカードに時間を使う。その「よく間違える」一覧は、評価の履歴からもうできている。

この方法が合わない時

試験まで数日しかないなら、いまから新しい仕組みを作らないほうがいい。手持ちの単語帳を二周して当日を待つほうがましだ。すでに単語帳の周回が回っていて、点が伸びている最中なら、道具を替える理由はない。この記事は、周回が崩れた人のものだ。スピーチ原稿を丸ごと暗唱するような作業も対象外で、あれは間隔を伸ばす必要がない。書いておくと、Piccardの字幕クリックが使うのはYouTubeだけで、Netflixなどには対応していない。

費用

Piccardは開始時に150エネルギーが付く。カード1枚で1エネルギーなので、150枚ぶん。そのあとは$5/$10/$20のチャージ制で、サブスクリプションではなく、チャージ分に期限はない。料金はサイトで確認できる。

はじめかた

最初の一手はどれか一つでいい。手持ちの単語集を上げて、知らない語を20枚以内で選ぶ。読んでいる英文から、引っかかった語を一つ選ぶ。字幕のある動画で、聞き取れなかった行を一つクリックする。翌日から復習の分が届き始める。そこから先は、覚え方の心配はもう要らない。残るのは分量の調整だけだ。PiccardをChromeに追加する


(試験別の流れは、TOEIC 単語の覚え方英検 単語の覚え方シス単 アプリで、カードを紙とアプリのどちらで作るかは英単語カードの作り方で書いています。)

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